「また、別のことを考えていた」
病院薬剤師として働いていると、1分1秒を争う業務や、極めて高い正確性を求められる場面の連続です。しかし、ADHDの特性を持つ私にとって、頭の中で次から次へと連想ゲームが始まってしまうことは、日常茶飯事でした。
新人時代、マルチタスクをこなそうとして混乱し、ヒヤリとした経験は一度や二度ではありません。
それから3年。試行錯誤の末に辿り着いたのは、精神論ではなく「脳を物理的にリセットする仕組み」と「記憶を一切信用しない環境作り」でした。今、同じように現場で必死に踏ん張っている方へ、私が実践している具体的な方法をお伝えします。
1. 脳内連想ゲームを「物理的」に止める
思考が枝分かれして止まらなくなったとき、自力で集中し直そうとするのは逆効果でした。大切なのは、脳に別の刺激を与えて「強制終了」させることです。
- 水分補給と刺激物: まずは一口水を飲む、あるいはミンティアを口に含みます。冷たさや強い刺激が、暴走し始めた脳を現実に引き戻すトリガーになります。
- 場所の移動: それでも思考が止まらないときは、一度その場を離れてお手洗いに行きます。視界に入る情報を一度遮断し、場所を変えることで脳をリセットします。
- 作業の切り替え: どうしても今の作業が進まないなら、いっそ別の作業を挟みます。無理に執着するより、一度離れたほうが後でスムーズに戻れることが多いからです。
2. 「同時並行」を捨て、「シングルタスク」を貫く
ADHDにとって、作業の中断は「忘却」と直結します。よほど緊急の用事でない限り、私は「今やっていることを終わらせるまで、次のことには手をつけない」と決めています。
このスタイルを貫くためには、一つ重要なステップがあります。それは、上司にだけは特性を伝えておくことです。
何も伝えないまま一つの作業に固執していると、「優先順位がつけられない」「融通が利かない」という誤解を招きかねません。実際、私も上司から直接こう言われたことがあります。
「君は本当に融通が利かないな」 「仕事の優先順位が全然つけられていないじゃないか」
その言葉にショックを受け、目の前が暗くなるような思いもしました。でも、だからこそ意を決して伝えたのです。「ミスを防ぎ、今の作業を確実に完遂させるために、一つずつ順番に対応させてください」と。
自分のやり方の理由を共有することで、ようやく周囲の理解を得ながら、パフォーマンスを発揮できる環境を作ることができました。
3. 「見返すこと」を忘れないための配置と形式
せっかく取ったメモも、手帳を閉じてしまえば存在しないのと同じです。
- 「視界」に強制的に入れる: メモはノートに書き留めるのではなく、PCの枠やデスクなど、嫌でも目に入る位置に「付箋」で貼ります。
- 文章ではなく「箇条書き」で: 読み返す際の脳の負担を減らすため、文章は一切書きません。一目でやるべきことが分かる「単語」と「チェックボックス」だけの箇条書きにします。文章だと、読み返すこと自体を後回しにしてしまうからです。
4. 正直に言って、薬剤師にADHDは「向いていない」
ネットやSNSを見れば、「ADHDに薬剤師は向いていない」という言葉が溢れています。正直に告白すると、私自身もその意見に半分は同意しています。
一瞬の油断が患者さんの命に関わる現場で、注意力が散漫になりやすい特性を持つ。これは客観的に見ても、相性が良いとは言えません。私自身、この3年間で「自分はこの仕事に向いていないんじゃないか」と、数え切れないほど自問自答してきました。
でも、「向いていない」からといって「できない」わけではありません。
向いていないと自覚しているからこそ、誰よりも慎重に、徹底した「仕組み」を作ることができる。自分を過信せず、道具や環境を使い倒してミスをゼロに近づける。その執念のような工夫こそが、結果として「安全な医療」に繋がるのだと、今の私は信じています。
結び:完璧を目指さない。仕組みで自分を守る。
病院薬剤師として現場に立ち続ける以上、特性は時に大きな壁となります。しかし、「気合で集中しよう」と自分を責めるのをやめ、今回お話ししたような小さな「仕組み」を持つことが、私を守る盾になりました。
- 脳をリセットする「刺激」を持つこと
- 自分に合った「環境」を周囲と相談すること
- 記憶ではなく「視覚」に頼ること
完璧な薬剤師にはなれなくても、自分なりの工夫で誰かの役に立てる薬剤師にはなれる。
この記事が、どこかで同じように奮闘しているあなたの、心を軽くするヒントになれば幸いです。

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